この春、記者になったキミへ


4月ですねぇ。


1月から期が始まる中小企業の弊社には、「新卒で記者候補生たちが入ってくる」などということがないのですが、それでもきっと日本全国にはたくさんの新人さんが、この業界に入ってこられたことと思います。



この、誰でも無料で好きなだけブログやら何やらで発信できる時代に、ようこそ記者の世界へ。記者クラブにも入っていない身でおこがましくはありますが、それなりに数年間、記者をしてきた人間としていくつかのことを。


主人公は読者である


あれも書きたい、これも書きたい、あれも言いたいこれも言いたい、あーその気持ちよくわかるよ。
でもね、主人公はキミじゃない。まして取材先でもない。主人公はあくまで読者。彼ら・彼女らが価値を感じないもの、理解できないものは、意味がないんですよ。だって読まれて話題になってなんぼですから。この商売。


「読まれないということは、存在しないのと同じことである」


昔某紙の記者の人に言われた言葉を、キミにも贈りたいと思う。



「正しい」なんて存在しない


人の心の中以外にはね。そしてその「正しさ」は、人や状況によって違うんだ。
たとえばキミが100万円を貯めたいとする。深夜コンビニで働く場合もあれば、株取引や為替取引をする場合もあるだろうし、異性に貢がせる場合もあるかもしれない。どの方法が正しいなんてことはないし、それが成功しても別のリスクを背負うこともある。ゴールと達成までの期間と、附随するリスクの中で、人はそれぞれの行動を決定する。それを第三者である自分たちが「正しい」とか「正しくない」とか、簡単に言える話じゃない。もしどうしても言いたいのなら、誰にとって、どういう理由で正しいと「思う」と言うだけだ。それは正しいという「事実」ではなく、正しいという「意見」に過ぎない。もちろん、その「意見」を意見として、表明することはすごく大切だ。


「正義感が暴力の発火点になることをちゃんと理解してないと、行き着くところは殺し合い」(BY 「過剰な正義―オタク商品研究所plus


この言葉をキミに贈りたいと思う。



「なぜ?」と常に問い続けて欲しい


どうして空は青いんだろう。どうして海も青いんだろう。どうして彼はこんなことを言って、どうして自分は傷つくんだろう。どうして彼女はこんなことをして、それは誰の利益になるんだろう。どうして自分は記者になりたくて、どうしてこの人はこんなにもぺらぺら喋ってくれるんだろう。どうしてこの人は自分を警戒して、どうしてこの人はこの仕事をしているんだろう。どうして何のために、自分はいまここで取材をして、こうやって文章を書き続けているんだろう。
そんなことを、いつもいつも問いかけていて欲しい。それは面倒くさくて辛くて楽しいことなんかほとんどないんだけど、何かわかった瞬間、やめられない快感になる。そしてそれがあって初めて、言葉に説得力が生まれる。


「ほぼイきかけました」(BY イチロー


この言葉をキミに贈りたいと思う。いらないか。



ジャーナリストほど参入障壁のない仕事もない


言葉さえ書ければ仕事はできる。あとは発信するインフラがあるかどうかだけ。テレビや新聞や雑誌やラジオの影響力がネットに負けているとは思わないけれど、ネットだって捨てたものでもない。キミが記者になったということは、キミはサラリーマンジャーナリストになったということ。品質や頻度の点で安定性が高いと思うけど、一発屋の怖さをなめてはいけない。
さっきも書いたとおり「正しい」なんてないから、あとは自分が納得行くように生きていくしかない。逆に言えば一度やめても何らかの形で戻ってこられる可能性も高いから、腕一本で生きていけるいろんな力を身につけるのが、遠周りだけど最短の道かもしれない。




そんなキミには、自分が役に立ったなぁと思う本をいくつか贈ろう。
・「新聞記者をやめたくなったときの本
絶版っぽいんですけどー。しがないねぇこの世界は。
業界本の中で一番読み返した本。
「仕事がつまんねぇとか言ってるのは言われたことしかやってねぇからだよ。てめぇがやりたいことやってりゃ楽しいに決まってんだろ。それができる仕事なんだからやりやがれ」というありがたいお言葉に満ちた本。

・「実践ジャーナリスト養成講座
1〜2回読み返したかなぁ、というくらいだけど、基本的なことがわかりやすくまとまっているのでお勧め。へぇ、って感じ。

・「ジャーナリストの作法
現役ジャーナリストの中ではこの人の本が一番面白かった。政治番の人なので、自分の知らない世界だからかもしれないけど。著者の田勢康弘さんは元日経新聞でいまは筑紫哲也さんの後を継いで早稲田大学客員教授をしている。テレビ東京の「週間ニュース新書」の司会者でもある。昔は日経新聞のコラムを書いていたんだけど最近はほとんど書いていない。政治家の心理を書かせたらピカ一。ちなみに四国新聞社のサイトで連載している記事は同じ人が書いているとは思えないほどつまらない。





おそらく昔ほど、商業メディアの記者というのは輝いて見えないだろうと思う。それでもこの仕事を選んだことに敬意と感謝を表したい。ほかの仕事よりも個人の志向性やがんばりが反映されやすい職業だと思うし、楽しいこともたくさんあると思う。
辛いことも多いと思うけど、自分の素直な感情を、何よりも大切にして欲しいと思う。それが読む人の心を動かすのだろうと思うから。


謙虚に前向きに、がんばれ新社会人。そしてがんばれボク。