ニコニコ動画は新しい経済圏の最先端を行っているのかもしれない


米Wired誌の3月号を読んだ。
っていっても読んだのは、Chris Anderson(クリス・アンダーソン、「ロングテール」という言葉の生みの親で、Wiredの編集長でもある)のコラム「Free!」だけだけど。

本文の内容は以下のブログに簡潔にまとまっているのでそちらを参照してください。
B3 Annex: Longtail著者の新作"Free"、Wired誌に先行登場! 6つの無料ビジネスモデルとは?
この6つの分類だけでも、なるほどなーと思える。


ただ、私が注目したのは、このブログには書かれていない、この後に書かれた部分。雑誌で言うなら194ページ目、あとがきのように書かれたところ。



Chris Andersonは「externalities」という概念を紹介する。それは「世界で求められているのは、お金だけではない」ということ。

その最たるものは人の時間と尊敬だ。この2つの要素がどんなものかは分かっている。ただ、資産として計れるものであることは、最近になってやっと分かったのだ。「アテンションエコノミー」(人の注目を指標にした経済)と「レピュテーションエコノミー」(人の評価を指標にした経済)というのは、学問的に見るとあまりにも曖昧だが、どちらの中にも、何かリアルなものがある。


人の時間や注目を集めるのは、広告に必須。テレビCMは視聴率、ウェブサイトの広告は「インプレッション」(閲覧数)で計りますが、これがまさに典型的。

尊敬とか評価というのは、まだお金にはなっていないですが、Amazonヤフオクで評価の低い出店主からは購入しない、なんてのが分かりやすいですね。

Chris Andersonはこれを最も分かりやすく体現しているのがGoogleだと指摘して、「グーグルはこれらの新しい経済における中央銀行になっている」と表現しています。



さらに、ぐっと来たのが次の台詞。

これら(人の時間と尊敬)は新たに求められているものだ――そして、無料(Free)の社会は、これらの価値ある資産を得るために存在していると言っていい。そしてそれは、これから明確になってくるであろうビジネスモデルのために必要なのだ。無料というものは、これまでドルやセントだけで換算されていた経済を、もっと現実的なありとあらゆるもので数え上げる。我々が現在、本当に価値を感じているものを使って。

追記

英語版、ウェブで読めることが分かったのでリンクしておきます。
http://www.wired.com/techbiz/it/magazine/16-03/ff_free
この本、いつ出るんだろ。


んー。ニュアンスが伝わるといいな。




で、この「人の時間や注目」と「人の尊敬」が動かしている経済圏が、いまここにある「ニコニコ動画」だと思ったのです。
ドワンゴの決算資料によれば、ユーザーの平均利用時間は2007年10月時点で1日1時間(PDF)。ニコニココラムによればコメント数は累計で9億を突破。1秒35コメント付いている計算。

尊敬は数字では表しにくいけれども、ユーザー=クリエイター同士がコラボレーションして新しいものを作り上げていく様子は、そこに尊敬がなければ起こりえないものだと思う。


ちなみにニコニコ動画もコンテンツは無料で見られるので、Free!経済圏に入ります。分類で言えば・・・って思ったら1〜6まで駆使してますね、これ。


1."Freemium"(1%の有料ユーザーの収益で99%の無料ユーザーを賄うモデル)
プレミアム会員(月額525円)が支えてます。


2.Advertising(広告モデル)
バナーとか時報とかですね。ニコニコ市場Amazonはこちらに入ります。


3.Cross-subsidies(他の商品で収益を上げる)
ドワンゴの着うた系に誘導するニコニコ市場はこちら。
あと「ねこ鍋」とかのDVDとかその他の商品化もこちら。


4.Zero marginal cost(コストがゼロだから無料で配っちゃう)
事例では音楽配信が上がっていて、配信コストがかからないので無料で配っちゃう、という話がありました。ニコニコ動画だとインフラコストがゼロ・・・というのは苦しいか。でも運営側から見ればインフラコストが膨大だけど、そこにコンテンツを提供するユーザーから見たら配信コストはゼロ、ということで。


5.Labor exchange(労働力を提供する代わりに無料になる)
ユーザーさんが動画をあげたり突っ込んだりアフィリエイトを張ったりすることで労働力を提供している、と言えそうです。


6.Gift economy(プレゼントモデル)
「お金だけがモチベーションじゃない」ということで、無料でコンテンツが見られるのはユーザーさんがほかのユーザーさんに自分が作った動画をプレゼントしている、と言えるでしょう。




もう、ドワンゴニワンゴ怖い子!



「人の時間や注目」と「人の尊敬」が動かしている経済圏のビジネスモデルは、Chris Andersonも「これから明らかになってくる」と語っています。
Googleが「人の時間や注目」と「人の尊敬」をひたすら集めて別のところへ流すPipeになることで巨大なビジネスを作り上げようとしているのに対し、ニコニコ動画が目指すのはエンターテインメント。つまり、「人の時間や注目」と「人の尊敬」を何倍にも膨らませる仕組みが出来上がる可能性があるわけです。



面白いことになってきました。


この話は、個人的にもすごくわくわくしているのです。追い続けたいテーマ。

お金は必要だけど、お金だけではすべての価値を計れない。
特にある程度、資金力が豊かになった「先進国」と呼ばれる国で、お金があるだけでは幸せになれない現状に、尊敬とか愛情とか連帯とか、いまは曖昧な言葉でしか語れないものを指標化できれば、「豊か」という言葉の意味が、もっと本当に豊かになれる気がしているのです。
「我々が現在、本当に価値を感じているもの」。それをもっと大事にできるように、していきたいな、と思うのです。


多分その答えを、私たちは手に入れつつあるのだから。